メッセージ:2008年1月〜3月
     

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ごあいさつ〜関西フィル第200回記念定期演奏会によせて
−関西フィル第200回定期演奏会(2008年3月28日)公演プログラムより転載−

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関西フィルハーモニー管弦楽団の皆様、そして関西フィルを応援してくださるすべての皆様!第200回記念定期演奏会おめでとうございます。

200回といえば大変に長い道のりであり、その間には、多くの喜びと計り知れないご苦労があったものと思います。音楽という人類共通の素晴らしい遺産を通じて、オーケストラと聴衆の皆様が幸せな関係を築き積み上げてこられた結果、200回という大変重みのある節目を迎えることに、心よりお祝い申し上げます。

関西フィルは、明るく開放的なテンペラメントをそなえた大変魅力的なオーケストラです。その表現は、オーケストラとしての機能性と水準のみならず生き生きとした説得力と迫力があり、私もご一緒する機会をいつも楽しみにしています。オペラやオラトリオといった声楽作品の領域にも積極的で、さらに、新しいレパートリーにつねに挑戦するエネルギーと好奇心も、関西フィルの大きな特長だと思います。

本日、ここに常任指揮者として私がこの栄えあるお祝いの音楽会をともに分かち合えることは大きな喜びであり、大変恵まれたことと思っております。この音楽会の成功のために、私も全力を尽くします。これからも、若くエネルギッシュな首席指揮者・藤岡幸夫氏と共に、関西フィルハーモニー管弦楽団のより一層の発展に貢献したいと願っています。

 
飯守泰次郎

 
   

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東京シティ・フィル第217回定期「スターバト・マーテル」によせて
−飯守泰次郎−

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ドヴォルジャークは私の非常に好きな作曲家の一人です。大変ロマン派的でブラームスのような重厚さがある一方で、スラヴ系の民族的な色彩と躍動感に満ちています。そしてメロディの美しさは、親友のブラームスも羨んだといわれるほどです。ドヴォルジャークといえば「新世界」交響曲、チェロ協奏曲、そしてスラヴ舞曲が有名ですが、あまり知られていない作品の中にも素晴らしいものがたくさんあるのです。今回とりあげる「スターバト・マーテル」は、その筆頭といえるでしょう。

この作品は、曲名(「嘆き悲しむ聖母」)のとおり、本当に悲しみに満ちた曲です。それにしてもこれほど悲しくも美しい音楽というのは他にあまりないのではないでしょうか。 もちろん、ドヴォルジャークが敬虔なクリスチャンだったことは、この曲が書かれた一つの理由であり、作曲家として、また信者としての動機がありました。しかしこの曲を作曲しているとき、彼は3人の子を相次いで亡くしており、個人としての悲しみが深く重ね合わされているに違いないと私は思っています。

この作品でよく出てくる、静かな上行音型。そしてごくゆっくりと下行してくるメロディーが、嘆き悲しむ心を表します。十字架にかけられ血を流して死んでゆく我が子を、見上げるマリアのまなざしが、見事に表現されています。この曲を聴いて、こんなに悲しい思いはしたくない、と感じる方もおられるのではないかとさえ思います。合唱も、ソリストも、オーケストラも、本当に深い表現力と感情移入を要求される音楽です。

この作品の美しさ、内容の深さ、キリスト教の教えの深遠に、改めて私も感動をおぼえます。演奏される機会が少ないのですが、もっともっと演奏されてしかるべき作品と考え、東京シティ・フィルの定期演奏会で取り組むことにしました。これから受難と復活の季節を迎えるこの時期に、みなさまとこの曲の素晴らしさを分かち合いたいと願っています。

 

 

新国立劇場 地域招聘公演 関西二期会
『ナクソス島のアリアドネ』
〈2008年1月25&27日/新国立劇場中劇場〉によせて


 

指揮者ノート


一口に「オペラ」といっても、多くの作品を知れば知るほど、その幅広さと奥深さに驚かされます。多くの国々の文化と芸術が何世紀もかけて築いたオペラの歴史は、言葉と音楽と視覚を調和させた結晶です。その内容は非常に多岐にわたり、あらゆる人間の生き様の表現に及んでいます。

しかし『アリアドネ』に向かうとき、36人という小編成のオーケストラによるこの作品に、オペラの歴史と内容が見事に凝縮されていることに気がつきます。悲劇と喜劇、理想と現実、善と悪、愛と絶望・・・常識では一緒になりえない内容が不思議にも調和しているのです。さらに人生には、哲学、信仰、愛のみならず明るい笑いと茶番もまた必要です。それらすべてが融合されていることが『アリアドネ』の特別な魅力です。

台本作者ホフマンスタールは述べています。生きることは変容することであり、とどまって忘れず誠実であることは人間的尊厳と結びついているが、変容しないことは死であり、この深い矛盾の上に存在が構築されている、と。この彼の最も深い思想を、トランプ好きの天才R.シュトラウスは、アクロバット的な見事な手品のように音楽で表現し尽くしました。オペレッタの笑いと踊りの世界から、深い哲学を持ったワーグナーの楽劇に至る驚くべき内容の幅すべてが、このコンパクトな作品に盛り込まれています。私はオペラ指揮者として、R.シュトラウスのこの特殊な才能に圧倒されながらも、その表現の幅広さに挑戦し、内容に迫っていきたいと思います。

 
飯守泰次郎 
(新国立劇場『ナクソス島のアリアドネ』公演プログラムより転載)

 
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