メッセージ:2011年4月〜6月  

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府中の森芸術劇場開館20周年記念 どりーむコンサート
“美しき音楽の花束をあなたに” (6/26)に向けて

−飯守泰次郎−

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飯守泰次郎です。6/26に、府中の森芸術劇場どりーむホール開館20周年を記念するメモリアル・ガラ・コンサート「美しき音楽の花束をあなたに」を指揮します。

このコンサートで久しぶりに東京交響楽団と共演できることを、非常に嬉しく思います。私の記憶が正しければ、まだ私が学生の頃に初めて指揮させていただいたプロ・オーケストラが東京交響楽団で、たしかベートーヴェンの交響曲第2番だったと思います。東響の本拠地であるミューザ川崎シンフォニーホールは震災の被害で現在使用できない状況が続いているため、昔から東響の練習場として私もなじみが深い大久保(新宿区)の練習場でリハーサルをしています。

ソリストは、ヴァイオリンの大谷康子さんが、なんとコンサートマスターを務めながら「ツィゴイネルワイゼン」やモンティの「チャルダーシュ」を弾いてくださいます。そのエネルギーに驚嘆しております。そしてソプラノの森麻季さん、テノールの佐野成宏さんが、デュエットを交えてオペラの名曲を歌ってくださるなど、大変豪華な3人をお迎えします。オーケストラのほうも「こうもり」序曲、ワーグナーの前奏曲も2曲演奏します。お客様には間違いなく楽しんでいただけるプログラムです。

東京西部の中心として文化の発展に寄与して来られた、府中の森芸術劇場の20周年を記念するにふさわしいコンサートになると思います。ぜひ皆様のご来場をお待ちしております。
 
飯守泰次郎

 

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東京シティ・フィル チャイコフスキー交響曲全曲シリーズに向けて
その2〜リハーサルだより〜
第1回(6/7、交響曲第3番/第4番)に向けて

−飯守泰次郎−

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飯守泰次郎です。東京シティ・フィルとのチャイコフスキー交響曲全曲シリーズの第1回(6/7)に向けて、連日リハーサルを重ねております。

リハーサル風景
リハーサル風景

チャイコフスキーの生涯は、他の大作曲家たちとは異なり、尊敬すべき素晴らしい逸話があるわけではありません。むしろスキャンダラスな出来事のほうが多かった、といえるかもしれません。

昨今、作曲家の実際の人生のさまざまな出来事を手掛かりにして音楽の内容にアプローチすることが一種の流行のようになっています。ただ、伝記的な事実にあまりに影響されて演奏するのはどうか、と私は思っています。もちろん、ひとつの参考にはなりますが、作曲家の創造のインスピレーションというものは、そんなに単純ではないように感じられるのです。

チャイコフスキー個人の生涯の出来事以上に、最も大切にされるべきは、ロシア人としての彼の心だと私は思います。

ロシアほど極端な悲劇に満ちた歴史を持つ国があるでしょうか。イワン雷帝、ピョートル大帝、貴族同士の抗争、ナポレオンによる包囲……。広大な国土における民族のぶつかり合い、粛清、国家的陰謀など、血なまぐさい悲劇の連続です。

さらに、生きていくだけでも困難なほど厳しい北国の自然環境も、文化に大きく影響しています。プーシキンをはじめ、チャイコフスキーと同時代の大作家トルストイ、ドストエフスキーなどの作品の多くは悲劇です。どんなに抑制しても噴出してくる人間の生きざまそのもの、悲劇を吹き飛ばすかのような熱狂的な喜びの爆発、といった極端な両面を持つチャイコフスキーの音楽は、ロシア文学と同じ源から生まれたのです。

ムソルグスキーやショスタコーヴィチの音楽は、こうしたロシアの悲劇的な歴史や厳しい自然とともに理解されていることが多いと思います。しかしチャイコフスキーについていえば、表面的な旋律の甘美さや抒情性、彼の得意とするバレエに由来するリズム、そして優れたオーケストレーションによる見事な演奏効果ゆえに、ロシア的な本質に深く迫ることなく演奏できてしまう、という傾向があるように思います。私は、一般的なアプローチとは少し違うやり方でチャイコフスキーの真実の姿に肉迫したい、と強く願い、今回の交響曲全曲シリーズに取り組んでおります。

リハーサル風景

明日(6/7)のシリーズ第1回では、まず交響曲第3番「ポーランド」を演奏します。
チャイコフスキーの交響曲中唯一の長調で、5つの楽章で構成され、第5楽章にTempo di polacca(ポーランドの舞曲のテンポで)という指定があるために「ポーランド」と呼ばれています。この作品でチャイコフスキーは、ロシア民謡から脱却してロシア的なものを彼自身の音楽で表現しようとした、と私は感じています。

そしてプログラムの後半で、いわば突然の円熟ともいうべき完成度に到達した名曲、交響曲第4番をとりあげます。

皆様のお越しを心からお待ちしております。

 
飯守泰次郎

 

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東京シティ・フィル チャイコフスキー交響曲全曲シリーズに向けて
その1〜「チャイコフスキー・レクチャー」(
6/3
−飯守泰次郎−

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飯守泰次郎です。東京シティ・フィル「チャイコフスキー交響曲全曲シリーズ」の第1回(6/7、第247回定期:第3番「ポーランド」/第4番)に先がけて、先日6/3に森下文化センター(東京・江東区)で「チャイコフスキー・レクチャー」を行いました。梅雨の合間の怪しいお天気にもかかわらず、多くの方がいらしてくださいました。

ピアノの前で熱弁
ピアノの前で熱弁

まず、作曲家としてのチャイコフスキー、彼の一生、そしてロシアという国の歴史・自然・民族性について、要点をお話ししました。

チャイコフスキーは誰もが知っている大作曲家です。交響曲第4番、5番、6番、ピアノ協奏曲第1番、ヴァイオリン協奏曲は、すべてのオーケストラがレパートリーにしているといえるでしょう。

独特の甘美な歌い回し、効果的なオーケストレーション、バレエの魅力をとりいれたリズムの巧みさなどの魅力に溢れ、チャイコフスキーをプログラムに組めば、コンサートの成功はほぼ間違いなし、という大変な人気です。

ただ、私は、このようなチャイコフスキーの演奏のありかたにつねづね首をかしげていました。彼の音楽の表面的な魅力にとらわれて、本来の、真実のチャイコフスキーの音楽の本質には至っていないのではないか、と感じられることがあるのです。

参加者にお配りした譜例
参加者にお配りした譜例

私とシティ・フィルの長年のお付き合いが深まり、ドイツ・ロマン派への取り組みを積み重ねてきて、そろそろロシアの音楽に取り組めるのではないかと願っていたところ、ついに今回のチャイコフスキー交響曲全曲シリーズという機会を得ることができました。

交響曲第4、5、6番におけるチャイコフスキーは、間違いなく見事に円熟した名作曲家です。これに対して、第1、2、3番 には進歩と成長の過程が表れており、彼がどんなに苦労して自分を確立し、後半3つの交響曲に到達したか、分かるのです。
私は、第1、2、3番も、必ず演奏すべきであると考えて、今回交響曲全曲をシリーズで取り上げることに致しました。

さて、レクチャーの後半では、交響曲第1番から順に、各楽章を構成する主要な主題と重要な要素を、ピアノを弾いてご紹介しながら説明しました。

いつも支えてくださる四野見和敏さんと
いつも支えてくださる四野見和敏さんと

そもそも、チャイコフスキーの6つの交響曲をわずか1時間半で解説するのは無理なことです。
以前からオペラのプロダクションなどで私を助けてくださる指揮者の四野見和敏さんのお力を今回もお借りして、ピアノでご紹介する部分のスコアの準備を整え、脱線し過ぎないように目配りをお願いしました。私自身も時間配分にも十分気を配って進めましたが、それでも15分ほど超過してしまいました。
結局、第6番の第2、3楽章は割愛せざるを得なくなりましたが、皆様とても熱心に最後まで耳を傾けてくださいました。

駆け足で、だいたいの要点を皆様にお伝えしましたが、情報が多すぎてわけがわからない、という印象を持たれた方もいらしゃるかもしれません(演奏会当日のプレトークでは、約30分をかけて、第1回でとりあげる第3番と第4番の2曲だけを説明できますので、もう少し時間があります)。

レクチャーだけではお伝えしきれなかったことも、演奏を聴いていただければきっとご納得いただけると思います。皆様ぜひ、どうかコンサートにいらしていただきたいと願っております。

 
飯守泰次郎

 

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関西フィル第229回定期(5/31)
『ジークフリート』第1幕(演奏会形式))&
モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番ニ短調 に向けて
〜その3 歌手・オケ合わせ&ケマル・ゲキチさんとのリハーサル〜

−飯守泰次郎−

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飯守泰次郎です。いよいよ明日、関西フィル第229回定期を迎えます。

『ジークフリート』第1幕は、会話で成り立っています。
何ものも恐れぬ力強いジークフリートを、竹田昌弘さんが自信に満ちて表現してくださっています。
片桐直樹さんは、さすらい人(ヴァンデラー)の会話の内容の深さを表現してくださいます。
この2人のそれぞれに絡まるミーメは、第1幕ずっと出突っ張りで、大変に大きな役です。この第1幕の段階で、ミーメは巧妙な企みを次々と具体化していきます。ミーメこそ、ワーグナーの中で最も心理的な音楽表現だといえるでしょう。このような大役を、初役にもかかわらず二塚直紀さんは驚くほど立派に表現してくださっています。

ケマル・ゲキチさんとのリハーサル
ケマル・ゲキチさんとのリハーサル

関西フィルも、ワーグナーらしからぬ『ジークフリート』第1幕の音楽の特徴に非常に好奇心を持ち、きつい練習をよくこなして、素晴らしい方向へと向かいつつあります。

例によって、ワーグナーのリハーサルは長く、厳しい時間が続きますが、皆大変熱心に取り組んでいます。聴衆の皆様に、ワーグナーらしくないワーグナーを楽しんでいただけると思います。

プログラムの前半は、モーツァルトのピアノ協奏曲第20番二短調で、ケマル・ゲキチさんをお迎えします。
ゲキチさんといえばコンチェルトの大曲に挑むピアニスト、という理解をしていましたが、モーツァルトも何とも軽妙に自由に弾いてくださいます。素晴らしいコミュニケーションを持つ音楽家で、共演していてとても楽しくなります。

リハーサル風景

生まれた国、育った国、音楽を学んだ国、そして今住んでいる国がすべて異なり、ヨーロッパとアメリカの範囲に及んでいるという彼は、まさにコスモポリタンのピアニストです。

音楽する喜びをふりまくような雰囲気に満ち満ちているゲキチさんが今回急遽ソリストを引き受けてくださってご一緒できることを、とても幸せに思います。

皆様、ぜひシンフォニーホールでお会いしましょう!

 
飯守泰次郎

 

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関西フィル第229回定期(5/31)
『ジークフリート』第1幕(演奏会形式)に向けて
〜その2 歌手・オケ合わせ〜

−飯守泰次郎−

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飯守泰次郎です。関西フィルの『ジークフリート』(5/31)に向けて連日のリハーサル中です。

歌合わせの様子
左端:ミーメ 二塚直紀さん/
右端:ジークフリート 竹田昌弘さん

『指環』四部作における『ジークフリート』は、いわばスケルツォである、ということは前回の記事でお伝えした通りです。
ワーグナーといえば連想される重厚なうねるような音楽とはまったく違っており、そこがこの楽劇の大変難しいところです。

若きジークフリートの力強さ、勝手気ままともいえるほどの自由奔放さが、作曲技術と演奏技術の両者を見事に組み合わせ工夫を凝らして表されています。このために、オーケストラには非常に高い技術と機動性が必要とされます。

一般的なワーグナーのイメージとは全く異なる魅力を持つ部分の一例として、第1幕第3場冒頭のミーメの妄想の部分があります。 森の中の鬼火のような一種の怪奇現象が描かれ、まさにロマン派を超えて表現派あるいは印象派のような音楽です。

リハーサル風景
右端:ジークフリート 竹田昌弘さん

とどまることを知らぬジークフリートのエネルギーに満ちている楽劇『ジークフリート』には、他のどのワーグナー作品にもないような生命力が溢れているのです。

 
飯守泰次郎

 

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関西フィル第229回定期(5/31)
『ジークフリート』第1幕(演奏会形式)に向けて
〜その1 歌稽古〜

−飯守泰次郎−

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飯守泰次郎です。関西フィルと続けている演奏会形式によるオペラ上演のシリーズは、今回で第11回を迎えます。

ソリスト3人との歌稽古
ソリスト3人との歌稽古

このシリーズでは一昨年、初めてワーグナーに取り組みました。『ワルキューレ』第1幕(2009年)、『トリスタンとイゾルデ』第2幕(2010年)に続き、今年(5/31、ザ・シンフォニーホール)は『ジークフリート』第1幕をとりあげます。

ワーグナー畢生の大作『ニーベルングの指環』は、『ラインの黄金』、『ワルキューレ』、『ジークフリート』、『神々の黄昏』の4晩から成る作品です。これを交響曲にたとえるならば、 指環にまつわるドラマ全体が提示される『ラインの黄金』は第1楽章にあたります。 『ワルキューレ』は非常に抒情的で、人間の内面性を扱っており、まさに交響曲の第2楽章にあたる性格を持っています。

ジークフリート役の竹田昌弘さんとミーメ役の二塚直紀さん
左から
ジークフリート役の竹田昌弘さんとミーメ役の二塚直紀さん

そしてこの『ジークフリート』はいわば第3楽章、スケルツォであるといえます。最後の『神々の黄昏』が最終楽章/フィナーレであり、幕が下りた後の物語を予感させつつ全作を締めくくるのです。

『指環』四部作におけるスケルツォともいうべき『ジークフリート』は、いわゆる“ワーグナーらしい”重々しくて雄大な音楽とは、かなり違います。
技術的で機敏な動きを要求される楽劇なのです。特に今回演奏する第1幕は、自由奔放な若きジークフリートの成長を描いており、目まぐるしいほどエネルギッシュな音楽で満ちています。

ソリストに大変豪華な3人の方をお迎えしてお送りします。 ジークフリート役は、ワーグナーをはじめとするドイツ・オペラのヘルデン・テノール(英雄的な役柄を歌う声質のテノール)の役をいつもお願いして、大きな実績をあげてくださっている竹田昌弘さんです。ミーメ役は、優秀で元気いっぱいの若手、二塚直紀さんです。

さすらい人役の片桐直樹さん
さすらい人役の片桐直樹さん

さすらい人(ヴォータン)役は、やはりいつもヘルデン・バリトンの役柄をお願いしていて、最近円熟味を増している片桐直樹さんです。

すでに3カ月前から、意気込みに溢れた練習を続けております。どうぞご期待ください。

 
飯守泰次郎

 

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関西フィルハーモニー管弦楽団 コミュニティー・コンサートVol.50
〜第50回記念 珠玉のオール・モーツァルト〜(5/19)によせて

−飯守泰次郎−

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飯守泰次郎です。関西フィルハーモニー管弦楽団のコミュニティー・コンサート(5/19)、そして関西フィル第229回定期演奏会(5/31、ワーグナー:楽劇『ジークフリート』第1幕ほか)に向けて、大阪に滞在しております。

関西フィルのコミュニティー・コンサート(5/19)は、 今回でちょうど50回目になります。関西フィルの練習場である弁天町オークホールで開催されているこのコンサートは、毎回のようにチケットが売り切れる人気のシリーズです。

今回は、モーツァルト・プログラムをお届けします。ピアノ協奏曲第9番変ホ長調「ジュノーム」は、まだとても若い伊藤香紀さんに独奏ピアノを弾いていただきます。
この曲を献呈された令嬢にちなみ、「ジュノーム」という愛称で呼ばれるこの作品は、モーツァルトの他のピアノ協奏曲に比べて演奏回数はあまり多くありません。しかしこれは大変魅力のある曲で、もっと演奏されて良い曲と思って選びました。

第1楽章は堂々たるテーマで始まり、快活さに溢れています。第2楽章はハ短調で、モーツァルト特有の憂いに満ちた、非常に深い内容を持つ曲です。第3楽章は行進曲のように力強く突進する、エネルギーのある音楽です。
この作品は、一度聴いたら本当に強い印象を受け、どなたでもすぐにその魅力にとりつかれてしまう曲だと思います。
変ホ長調という調性は英雄的な性格を持ち、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」でも知られておりますし、モーツァルトの交響曲第39番もやはり非常に英雄的な力に満ちています。この「ジュノーム」も、同様の力に満ちています。

さて、交響曲第36番「リンツ」は、モーツァルト後期の交響曲で、よく知られている39、40、41番、またその前に書かれた「プラハ」(38番)、「ハフナー」(35番)と並ぶ名曲です。リンツに立ち寄ったモーツァルトが、当地の貴族の注文に応えてわずか4日間で作曲されたことでも有名です。ハ長調の調性が示す通り、大変力強い曲で、後期の6つの交響曲の中でも特別な光を放っています。今回、大きなコンサートホールでなく関西フィルの練習場の弁天町オークホールという、聴衆とオーケストラの距離が近い親密な空間で演奏できることは、モーツァルトにはとてもよく合っていて、ひとつの理想的なありかただと思います。

関西フィルのコミュニティー・コンサートは、毎回いらして下さるファンも少なくありません。関西フィル事務局長の西濱秀樹氏の説明が分かりやすく、いつもなごやかで温かい雰囲気に満ちています。地元との交流を大切にする関西フィルの特長を示しているコンサートのシリーズだと思います。満員のお客さまをお迎えすることが多いので、まだチケットをお持ちでない方は早めに事務局へお問い合わせくださいますようお願いします。
ぜひ皆様のお越しをお待ちしております。
 
飯守泰次郎

 

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東京フィルハーモニー交響楽団
ドイツ・日本・ボヘミア‐三民族の濃密なる饗宴
(5/12〜第62回東京オペラシティ定期シリーズ/
5/15〜第802回 オーチャード定期演奏会)によせて

−飯守泰次郎−

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飯守泰次郎です。このたび、東京フィルハーモニー交響楽団の創立100周年を記念する定期演奏会のシリーズで、私も5/12と5/15の2回、指揮を致します。

創立100年の歴史というのは、驚くべきものです。この100周年を記念するシリーズに「日本の力」というサブタイトルが付いている通り、東京フィルはまさに100年間、音楽で日本を支えてきたということだと思います。 私も1972年の「ワルキューレ」以来、約40年にわたり数多くのオペラとコンサートでご一緒してまいりました。改めて心からお祝いを申し上げます。

今回は、ドイツ・日本・ボヘミアの3曲という、非常にコントラストのあるプログラミングを致しました。

5/12は東京オペラシティでの定期シリーズです。
まずワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より第1幕への前奏曲、そして2曲目は矢代秋雄(1929〜1976)のチェロ協奏曲で、ソリストにはベテランの長谷川陽子さんをお迎えします。この協奏曲はチェロのレパートリーとしてもすでに定着しており、日本人の誇りとする作品です。
3曲目は、私が特別に愛する作曲家であるドヴォルジャークの、交響曲第8番です。この名曲で本当に良い演奏をするのは難しい、と今回も改めて思っております。
今回は3曲とも大変にポピュラーな名曲揃いだけに、新鮮な感動を伝える演奏をすべく努力を致しております。

5/15はBunkamuraオーチャードホールの定期シリーズで、同じ「ドイツ・日本・ボヘミア」というプログラミングですが、2曲目の矢代秋雄作品はピアノ協奏曲で、田村響さんをお迎えします。田村さんはまだ20代半ばの若さながら、この名曲かつ難曲に見事に取り組んでいらっしゃいます。
矢代さんは、私が学生時代からよくお付き合いしていた大変なつかしい作曲家であり、以前にも「交響曲」を指揮しました。今回、矢代さんの代表的な協奏曲2曲を演奏できることを、とても楽しみにしております。

すでにリハーサルが始まっており、東京フィルは大変素晴らしい演奏をしてくださっています。ドイツとボヘミアと日本、ここには何か共通のものがあるような気がしてなりません。ボヘミアには東洋的な要素があり、どこか日本人に通じるところがあります。日本に西洋音楽が入ってきた時、日本人はドイツ音楽を非常に積極的に取り入れ、すでに私たちの中にドイツの音楽が深く根付いています。
この色彩豊かなプログラムを、長いお付き合いの東京フィルの記念のコンサート・シリーズで共演できることを、大変嬉しく思います。ぜひ皆様とコンサートホールでお会いできますよう願っております。

 
飯守泰次郎

 

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新交響楽団第213回演奏会 (5/8)によせて
−飯守泰次郎−

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飯守泰次郎です。明日5月8日は、上野の東京文化会館で新交響楽団を指揮します。新響とはもう長期にわたり、定期的にお付き合いしています。私もこのオーケストラを信頼し、オーケストラも私を信頼してくれています。

今回のプログラムの前半は、ブラームスを2曲、お送りします。
大学祝典序曲、そしてヴァイオリン協奏曲ではソリストに松山冴花さんをお迎えします。松山さんは2004年の仙台国際音楽コンクールで第1位に入賞された、まだ若い素晴らしいヴァイオリニストで、今回のためにニューヨークからわざわざ来てくださっています。飛行機の関係で到着が危ぶまれたときも、曲順を変えて対応するなどして、一緒に練習を重ねてきました。
共演をとても楽しみにしています。

後半は、ドヴォルジャークの交響曲第7番です。ドヴォルジャークの交響曲といえばもちろん第8番、第9番(新世界)が有名で、いずれも見事な完成形となっています。 しかし、それよりも私が最もドヴォルジャークらしい、ボヘミアの音楽らしい、と思うのがこの第7番なのです。
作曲家が自分のアイデンティティを追求し、ボヘミアの音楽の根っこを探っていることが感じられ、そこに創造性の秘密が隠されているようで、ドヴォルジャークの交響曲の中で私にとって最も愛着のある作品なのです。
この作品を新響と共演できることをとても嬉しく思います。

東日本大震災の犠牲と被害を思い、演奏会の冒頭に芥川也寸志「絃楽のための3楽章」から第2楽章の静かな音楽を献奏致します。 東京文化会館で皆様にお会いできますよう、願っております。

 
飯守泰次郎

 

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東京シティ・フィル 東日本大震災復興支援演奏会(4/29)によせて
−飯守泰次郎−

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飯守泰次郎です。東京シティ・フィル 東日本大震災復興支援演奏会(4/29 主催:アルペンミュージックオフィス)は、プログラムが多岐にわたるコンサートです。開演前(13:15〜)にプレトークでお話を致しますが、ホームページをご覧の皆様にも、演奏する曲目についてお伝えします。

ヴァイオリン小林美樹さんとのリハーサル
ヴァイオリン小林美樹さんとのリハーサル

プログラム前半に演奏するショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番は、ロシアの民族的・歴史的な内容を持ち、しかもエネルギーに満ちています。この曲を、まだ20代になったばかりの若さながら超絶技巧を持つ小林美樹さんが、演奏してくださいます。

第1楽章は、ロシアの悲劇的な歴史、民族の夢とも悲しみとも訴えとも思われる、非常に深い音楽です。このような音楽が協奏曲の第1楽章として作曲されるのは、大変まれなことだと思います。

第2楽章はスケルツォで、明らかに諧謔、遊びという名目の音楽ではありますが、ショスタコーヴィチ独特のシニカルな面を持ち、ブラック・ユーモアのようでもあり、非常に考えさせられます。

リハーサルの様子
リハーサルの様子

第3楽章はパッサカリアという音楽形式を用いた、一種の変奏曲です。ショスタコーヴィチは古い形式を好んでよく使いました。パッサカリアは、ほとんどの場合が短調で、変奏を繰り返しながら悲劇的な高まりをみせるのです。

第4楽章はロシアの民族舞踊を思わせる力強い音楽です。しかも、ロシア独特の、終結に向かって高まりながら突進していくエネルギーの凄さには、まさしく驚嘆するほかありません。

この作品は、協奏曲というよりは1つの哲学的な交響曲ともいえるくらいの内容に満ちています。私には、ショスタコーヴィチの有名な交響曲第5番とこの曲が、重なり合って感じられてなりません。

小林美樹さんと
小林美樹さんと

ロシア人の長い悲劇的な過去と苛酷な自然、そしてそれらを吹き飛ばすような、シニカルでもありながら肯定的でもある尋常でない爆発的なエネルギー、あるいは歓び、そういったものがすべて、この1曲の中に組み込まれているのです。

後半は、ワーグナーの管弦楽名曲集をお送りします。

『ジークフリート牧歌』は、ワーグナーが愛妻コジマの誕生日に贈った作品です。室内楽的で透明な音楽で、ワーグナーがこのように優しい音楽も書いていたことを感じていただければと思います。

『ローエングリン』は、ワーグナーの初期を締めくくる特別な歌劇です。 神のような存在である騎士ローエングリンと人間の女性エルザが結ばれることなく幕を閉じる、悲劇的な作品です。
天上からやってきたローエングリンを象徴する、純正で澄みきったイ長調の響き、この作品特有の精緻なバランスを実現するのは非常に難しく、名曲でありながら上演の機会があまり多くない歌劇です。
今回は、この作品のモチーフによるファンファーレと、第1幕への前奏曲、第2幕でエルザが結婚式の前に大聖堂に静かに入場する場面の音楽、大変よく知られている結婚行進曲、そして第3幕への前奏曲を演奏致します。

そして、ワーグナー後期の作品で、この世の中がどのような運命をたどっていくかを扱った壮大な楽劇『ニーベルングの指環』4部作から、皆様もよくご存知の「ワルキューレの騎行」と、「夜明けとジークフリートのラインへの旅」をお送りします。

本公演は当日券もございます。ぜひ初台でお目にかかりましょう。

ご参考記事:
演奏家が語る『ニーベルングの指環』 飯守泰次郎
(日本ワーグナー協会ホームページ/2003年6月掲載)

 
飯守泰次郎

 

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群馬交響楽団の震災復興支援コンサート
〜群響2011オープニングコンサート(4/16)〜によせて

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飯守泰次郎です。 群響2011オープニングコンサート(4/16)に向けて、リハーサルを重ねております。

群馬交響楽団とのお付き合いは大変長く、私がまだ駆け出しだった1960年代前半に、全国51か所を巡回した労音公演『椿姫』でご一緒したのが、最初の出会いです。姉が群響のフルート奏者だった時期もあり、当時の団員の方々は入れ替わりましたが、今も定期的なお付き合いが続いている、とても懐かしく思うオーケストラなのです。
新進気鋭のコンサートマスター水谷晃さんは、とても若々しい力を発揮して頑張ってくださっています。3人の外国人団員が在籍していて、インターナショナルな雰囲気があるのも素晴らしい魅力です。

曲目は、ワーグナーの『タンホイザー』序曲、リストのピアノ協奏曲第2番、そしてベートーヴェンの『田園』というプログラムです。
ピアノのソリストには河村尚子さんをお迎えします。彼女とは以前もご一緒したことがあり、まさしく天才的な演奏家だと思います。この、リストの名曲で共演できることを、大変楽しみにしています。

いま群響は、各地に出向いてチャリティ活動やコンサートを開催し、被災された方々を勇気づけています。今回も震災復興支援コンサートとして、主催公演ができない困難な状況が続いている仙台フィルハーモニー管弦楽団から各弦楽器パート一人ずつを招き、一緒に演奏します。

コンサートの冒頭で黙祷を捧げ、バッハの「G線上のアリア」を演奏致します。有意義なコンサートにふさわしい演奏をしたいと思います。

 
飯守泰次郎

 
 
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