メッセージ:2018年4月〜6月  

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「イオネル・ペルレア 1969年ステレオ・ライヴ」CDによせて
忘れ得ぬ瞬間〜イオネル・ペルレア先生のレッスン

−飯守泰次郎−

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飯守泰次郎です。もう50年以上前のことになりますがニューヨークのマンハッタン音楽院留学当時に師事していたイオネル・ペルレア先生のライヴCDが、このたび新発売されるとのことで、文章を寄稿いたしました。こちらのHPをご覧いただける方にもお読みいただけるように、以下に掲載いたします。

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忘れ得ぬ瞬間〜イオネル・ペルレア先生のレッスン

飯守泰次郎

私は学生の頃、桐朋学園の齋藤秀雄門下で指揮を学んでいたが、藤原歌劇団でピアニストを務めていたときに藤原義江さんに認められ、プッチーニの「修道女アンジェリカ」で指揮者デビューすることになった。そして、当時盛んだった労音の「椿姫」公演を私ひとりで約1年間に51回も指揮したことが決定的な体験となって、「指揮者として大事なのはオペラだ」と確信し、オペラ発祥の地であるヨーロッパのオペラハウスで仕事をしよう、と心に決めた。

とはいえ、すぐにはヨーロッパに渡らなかった。いきなりロンドン、パリ、ローマ、ウィーン…といった大都市に行くと、その国の圧倒的なアイデンティティーに呑み込まれてしまう。若いうちは、一国の文化に偏らず、できるだけいろいろな価値観に触れて全体的な視野をもちたい、と考えて、まずは人種のるつぼであるニューヨークに留学した。
ジュリアード音楽院ではなく、オペラに力を入れているマンハッタン音楽院を選んだところ、幸運にもイオネル・ペルレア先生が教えていらっしゃる時期で、師事することとなった。1965年のことである。

ペルレア先生は、晩年のトスカニーニを支えた方で、ミラノ・スカラ座を始め世界的な歌劇場やオーケストラで活躍し、数多くの録音を残した巨匠として知られていた。
メトロポリタン・オペラでも 『トリスタンとイゾルデ』『リゴレット』『椿姫』『カルメン』等を指揮されたようだが、私が留学当時はすでにご高齢だったうえに半身不随で、椅子に座ったまま左手で指揮をされていた。顔半分は表情も動かず、目元もドラキュラのようで怖いくらいの容貌だが、その動くほうの顔半分でニタッと笑って、棒も持っていない左手をちょっと動かすだけで、オーケストラの音が途端に素晴らしい響きになるのだった。

ペルレア先生の授業はすべて出席し、それ以外の授業は全部さぼって、メトロポリタン・オペラ、ミュンシュ指揮のニューヨーク・フィルハーモニック、ラインスドルフ指揮のボストン交響楽団、オーマンディー指揮のフィラデルフィア管弦楽団などを聴きまくった。
ペルレア先生が、マンハッタン音楽院のオーケストラでマーラーの交響曲第5番を指揮された際は、私もアシスタントを務めた。その時のスコアは、まだ大切に持っている。

『トリスタンとイゾルデ』“前奏曲と愛の死”のレッスンは、今も忘れることができない。
前奏曲がほぼ終わって、チェロとコントラバスの響きだけがppで残り、もはや死に絶えるような、音楽も時間もすべてが止まるかのような瞬間、“愛の死”のバス・クラリネットが静かに入ってくる場面。その時、ペルレア先生は、ごくわずかな身振りのみで私に、「動くな。何もするな」ということを伝えたのだ。
その頃、先生はすでに言葉も明確ではないような状態だったが、「動くな」という彼の指示は、言葉を超えた音楽的な表情として、電撃的に私を圧倒した。それは極言するなら「指揮するな」という“命令”だった。そのペルレア先生の表情、左手がほんのわずか、私を牽制するような動き……それだけで私は彼の言いたいことをはっきりと理解した。両手をちゃんばらのように振り回している自分が、あれほど恥ずかしく感じられたことはない。  

翌1966年、私はミトロプーロス国際指揮者コンクールに入賞し、その場に偶然来ていたリヒャルト・ワーグナーの孫のフリーデリンド・ワーグナーに誘われて、彼女の主宰するバイロイト音楽祭のマスタークラスに参加するためにドイツに行くことになった。以来50年、ワーグナーの作品は私の指揮者としての仕事の最大の柱のひとつである。そして今も、ペルレア先生の『トリスタンとイゾルデ』のレッスンのあの瞬間は、ありありと私の中に残っている。

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飯守泰次郎

 

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札幌交響楽団
第610回定期演奏会(6/22、23)に向けて

−飯守泰次郎−

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Kitaraホールでの本番から
Kitaraホールでの本番から

飯守泰次郎です。今週6/22、23の両日は札幌交響楽団の定期演奏会を指揮いたします。
今回のプログラムは、ドヴォルジャークのチェロ協奏曲と、チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」という、ともにスラヴ系の作曲家による名曲中の名曲を組み合わせたプログラムです。チェロ協奏曲のソリストには、石坂団十郎さんをお迎えします。

今回のチェロ協奏曲と『悲愴』は、2曲ともロ短調という、特別な調性の作品です。シャープが2つ付く調性という意味ではニ長調の関係調なのですが、調性としての色合いは神秘性、非現実性を帯びています。

ドヴォルジャークは、私が特別な愛着をもっている作曲家の一人です。特にこのチェロ協奏曲は、古今のチェロ協奏曲の中でも最も華やかで素晴らしい作品のひとつです。人気と実力を兼ね備えたヴェテランである石坂団十郎さんと札響のアンサンブルを、お楽しみいただければと思います。

石坂団十郎さんとのリハーサル
石坂団十郎さんとのリハーサル

チャイコフスキーも、私のレパートリーの中でとても重要な作曲家です。チャイコフスキーの作品は、魅力的なメロディーや見事なオーケストレーションが素晴らしく、表現を誇張すれば圧倒的な演奏効果を上げられるため、とても人気があります。しかし私は常々、いわゆる「名曲」というよりも、ロシアの苛酷な自然と歴史と結びついたチャイコフスキーの音楽の本当の価値に迫りたい、と考えて取り組んでいます。チャイコフスキーに限らず、演奏家は常に作曲家の心に向かっていくべきであり、自分がどこからどう入り込んでも作品から何かが与えられる、と信じています。

札響との共演は、もう二十年以上になり、ワーグナーやベートーヴェンはもちろん、スクリャービンなども含めた幅広いプログラムで共演しています。最近では、2年ほど前にワーグナーの『指環』の管弦楽による名場面集での大変に熱のこもった素晴らしい演奏が、強く印象に残っています。
日本で最も美しい響きを持つホールのひとつであるKitaraホールで、皆様のお越しをお待ちしております。
北海道名物の「カツゲン」が元気の素!
北海道名物の「カツゲン」が元気の素!
(オランダ在住時、似た飲料を愛飲していました)

 

飯守泰次郎

 

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仙台フィルハーモニー管弦楽団
第319回定期演奏会(2018/6/15、16)によせて

−飯守泰次郎−

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仙台フィルとのリハーサル
仙台フィルとのリハーサル
(写真提供=仙台フィルハーモニー管弦楽団)

飯守泰次郎です。仙台におります。いよいよ本日6/15と明日6/16は、仙台フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会です。

仙台フィルとはすでに長年にわたり、ドイツ、オーストリア音楽を中心に度々共演してきました。そのいずれも大変心に残るコンサートであり、特に、オーケストラの若々しいパワーと新鮮な好奇心、音楽に取り組む姿勢に、私も毎回強い刺激を受けています。
今日は、4月に私が常任指揮者に就任してから指揮する最初のコンサートでもあり、この日を大変楽しみにしてまいりました。

常任指揮者をお引き受けするにあたり、ベートーヴェンを中心としたレパートリーに改めて取り組むことをひとつの柱としており、今回のコンサートもベートーヴェンの交響曲第2番ニ長調、交響曲第3番「英雄」変ホ長調の2曲のみ、という非常に内容の濃い、集中したプログラムです。

いずれの交響曲も、もはや私が何か言葉でご説明する必要もありません。しかも、この2曲のみを続けて演奏できるのは非常に稀なことです。
「英雄」が交響曲の新しい時代を創造した作品であることは言を俟ちませんが、交響曲第2番にもすでに、後年の「第九」につながる発想が随所に見られます。真の改革者であったベートーヴェンが、それまでの音楽史を乗り越え、自身の作品をも次々と創造的に破壊して新しい時代に踏み込む姿を、ありありと感じていただける演奏会にしたいと思います。

仙台フィルの定期演奏会場 日立システムズホール仙台
定期演奏会場  日立システムズホール仙台 コンサートホール (写真提供=仙台フィルハーモニー管弦楽団)

仙台フィルでは、定期演奏会の本番会場である日立システムズホール仙台・コンサートホールでリハーサルができるので、本番の響きを時間をかけて作っていくことができます。定員約800人で親密な響きをもったこのホールの特性と、ベートーヴェンの当時の弦楽器の配置などの歴史もふまえて、今回も「対抗配置」で演奏いたします。

地元の皆様に愛され、最近は国内各地の音楽愛好家にもよく知られる存在となりつつある、この将来豊かなオーケストラと共に、新たな歴史を歩んでいけることを、心から幸せに思います。
皆様のお越しを、日立システムズホールで心よりお待ちしております。


2日目(6/16)の本番から
2日目(6/16)の本番から
(写真提供=仙台フィルハーモニー管弦楽団)
 

飯守泰次郎

 

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ホームページをご覧の皆様へ
新国立劇場『フィデリオ』を終えて(2018年6月)
−飯守泰次郎−

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『フィデリオ』千秋楽終演直後の記念写真
新国立劇場『フィデリオ』楽日終演後(2018年6月2日)〜歌手、音楽スタッフの皆さんと
 

カタリーナ・ワーグナー氏と
初日開演前にカタリーナ・ワーグナー氏と

飯守泰次郎です。 新国立劇場開場20周年記念特別公演『フィデリオ』全5公演が終了いたしました。 このたびの『フィデリオ』は、次世代の世界のオペラ界をリードする立場にあるカタリーナ・ワーグナー氏に演出を依頼しました。 非常に刺激的な演出で、終幕に向けて毎回、 お客様が固唾を飲んで舞台に集中していらっしゃる緊迫感がオペラパレスの客席全体に充満し、ピットにもひしひしと伝わってきました。

終演直後のカーテンコールでも毎回活気に溢れた反応をいただき、今も実に多様なご感想が寄せられております。開場20年を迎え、新国立劇場の発展にふさわしく成熟されている現在のお客様に、これまでの新国立劇場のプロダクションから一歩踏み込んで敢えて問題提起する斬新な演出をご覧いただくべき時、と考えて今回の公演を実現し、いま非常に大きな手ごたえを感じております。

新国立劇場の舞台空間と機構を最大限に駆使し、演劇的な要素を強調した非常にダイナミックな舞台で、歌手同士も、オーケストラ、合唱とも、それぞれ大変距離があり、音楽の面でも高度な集中を要求されましたが、 皆さん頑張って一体となったアンサンブルをしてくれました。

リカルダ・メルベート氏(レオノーレ役)と
リカルダ・メルベート氏(レオノーレ役)と

リカルダ・メルベート氏は、巨大なセットの中を縦横に動き回り、難しいパントマイムを含む高い演劇的要求に応えながら、レオノーレというこの困難な役を素晴らしく気高く歌ってくださいました。

彼女とは『さまよえるオランダ人』(2015年)のゼンタ、『ジークフリート』(2017年)のブリュンヒルデでも共演したほか、私が指揮した公演ではありませんが昨冬の『ばらの騎士』の元帥夫人でも見事な歌唱を聴かせてくださり、新国立劇場にとって欠かせない大切な歌手のお一人です。

フロレスタン役のステファン・グールド氏は、本来なら出番のない第1幕から出ずっぱりにもかかわらず、古今東西のオペラの諸役の中でも最も重要ともいえる第一声から、英雄にふさわしい輝かしい圧倒的な響きでオペラパレスを満たしてくださいました。

ステファン・グールド氏(フロレスタン)と
ステファン・グールド氏(フロレスタン)と

『指環』四部作のすべてで大活躍してくださった彼の浴衣姿は、楽屋ではもはやすっかりおなじみです。今夏のバイロイト音楽祭では、トリスタン役に加え、新国立劇場でロールデビューされたジークムント役でも出演されるとのことです。

千秋楽の6/2終演後、舞台裏で、出演歌手の皆さん、そしてこの公演を一緒に作り上げた音楽スタッフの皆さんとともに写真を撮りました。 私が持っている大きな花束は、カーテンコールの際、東京交響楽団の楽員の方がピットから舞台上に身を乗り出して贈ってくださったものです。いきなりピットから花束が出てきてとても驚き、皆さんのお心遣いを大変嬉しく思いました。
この写真に写っていない新国立劇場合唱団や東京交響楽団の皆さん、助演の方々は勿論、このプロダクションの挑戦を支えてくださったすべての皆様に、心からの感謝をささげたいと思います。

この『フィデリオ』をもちまして、新国立劇場オペラ芸術監督として私が指揮するすべての公演を、おかげさまで終えることができました。応援してくださった皆様、支えてくださった皆様、このホームページをご覧くださっているすべての皆様に、改めて深く御礼を申し上げます。

来月の『トスカ』(ロレンツォ・ヴィオッティ氏指揮/アントネッロ・マダウ=ディアツ氏演出の人気の舞台。7/1・4・8・12・15)をもって、2014年秋から四年間、私がオペラ芸術監督を務めてきたすべての公演が終了いたします。私の指揮者としてのデビューはプッチーニ作品であり、『トスカ』も大好きな作品です。新国立劇場でオペラ芸術監督として皆様をお迎えするのは『トスカ』が最後となりますので、皆さまのお越しを心からお待ちしています。

 

飯守泰次郎

 

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新国立劇場『フィデリオ』
演出家カタリーナ・ワーグナー記者懇談会(2018/5/16)

−飯守泰次郎−

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『フィデリオ』演出家カタリーナ・ワーグナー氏
『フィデリオ』演出家カタリーナ・ワーグナー氏

飯守泰次郎です。新国立劇場開場20周年記念特別公演『フィデリオ』のリハーサルが大詰めを迎えております。

5/20(日)の初日を前に、報道関係者の方々を対象にした「演出家カタリーナ・ワーグナー記者懇談会」(通訳:蔵原順子氏)が5/16に開催されました。私はこの懇談会には同席しませんでしたが、連日の稽古の合間を縫ってカタリーナ氏と、ドラマツルグを務めるダニエル・ウェーバー氏を囲んで多くの記者の方々がお集まりくださり、短い時間ではありましたが活発な質疑がかわされましたので、その一部の要旨を以下にお伝えしたいと思います。

カタリーナ氏らしい非常に斬新な問題提起を含んだ舞台なので、驚かれる方も多いと思いますが、どうかご自身の感覚で自由に、まさに今から生まれる新たな『フィデリオ』の姿をご覧いただきたいと思います。オペラパレスで皆様のお越しを心よりお待ちしております。

(飯守泰次郎)

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新国立劇場「カタリーナ・ワーグナー記者懇談会」(5/16)より、質疑応答の一部(要旨)ご紹介〜

Q:ワーグナー以外の作曲家の作品にも親和性を感じるか。ベートーヴェンの音楽のどういうところに最もインスパイアされるか?

A:基本的に演出家として、その音楽に何かしら感じるものがある作品を演出するべきだと考えている。ただワーグナーの音楽は私にとっては特殊で、子供のときからあまりにも当たり前な存在でうまく言葉で説明できない。私の人生の一部であり、特になじみ深い。 他の作曲家の作品も音楽的内容に惹かれるものを演出している。そういう意味でベートーヴェンの音楽にも惹かれる。

Q.『フィデリオ』の音楽の特にどういうところに惹かれるか?

A:特に合唱の場面に心打たれるが、それが今回さらに親近感が増しているのは、新国立劇場の合唱団が大変素晴らしいから!ますます合唱の場面が好きになった。もちろんレオノーレのアリアもフロレスタンのアリアもそれぞれ素晴らしい。
カタリーナ氏とドラマツルクのダニエル・ウェーバー氏
カタリーナ氏とドラマツルクのダニエル・ウェーバー氏
Q:演出をするにあたり、特に譲れない、あるいは大切にしたいと考えていることは?

A:個人的に情熱を感じる作品を演出することだ。1つのコンセプトだけでは作品は埋めつくせない。作品全体を満たすだけのアイディアを持てる作品を演出し、常に、お客様の想像と思 考を引き出せるように考えている。バイロイト音楽祭に招く演出家についても同じ考え方で、作品に対して炎のような情熱を持っている人を招いている。
そして、劇場の姿勢も重要。「このプロダクションを世に送り出したい」という強い気持ちを劇場が持つことが大切。新国立劇場はすべてのスタッフが優れていてフレンドリーで、最高の環境で仕事ができている。このプロダクションを新国立劇場でできるのは私にとって大きな喜び。あまりにも新国立劇場が完璧なので、「腹を立てる」という感情を忘れてしまったほどだ(笑)。

Q:この作品に多くあると思われる「余白」をどう埋めるか、あるいは埋めずに観客の想像の余地を残すか?

A:我々はぜひ、皆様に考えてほしいと思って演出しており、その意味で「余白」は残している。考えていただくために「こういう方向の考えもある」という示唆となることも、多く盛り込んでいる。ベートーヴェンの音楽は、決して何かを断言しているわけではない、と思っている。 我々の見解も押し付けるのではなく、「?」付きで提示したい。特に結末については、ご覧になる方々に考えていただく、オープンな結末にしている。

Q.今回、新国立劇場で演出する作品が『フィデリオ』ということはずっと前から決まっていたか?

A:2年前に飯守芸術監督からオファーをいただいた。私も以前から考えていた作品なので、オファーをいただいて短い時間で引き受ける判断ができた。 飯守マエストロとの仕事をとても楽しんでいる。マエストロは立ち稽古のかなり初めの段階からほぼすべてのリハーサルに付き合ってくださって、これは決して普通のことではない。演出稽古の段階から一緒に作りあげてきた、という手ごたえがある。

Q:飯守芸術監督はインタビュー(「ジ・アトレ誌2018年1月号掲載)で「長い間閉じ込められても変わらないフロレスタンの高潔な人物像をカタリーナさんがどう描くが楽しみ」と述べていた。このことについてのお考えは?

A:私たちは今回の演出でフロレスタンを、常に希望を抱いている人、として描いている。彼は、希望につながる要素が見えている間は、理想を失わない。一方で、フロレスタンという人はリアリストだと思う。希望を与えてくれる要素が無くなるとわかったら、自分の境遇に対してリアルな反応をする人。賢明なリアリストだからこそ、ある段階で自分の境遇を受け入れられる、現実的な見解を持つ人。風車に闘いを挑むことはしない人だと考える。

Q.21世紀のオペラの可能性についてどう考えるか。

A:オペラにはこの先もチャンスがあると思う。それはオペラが人間の感情に訴えるからであり、音楽は素晴らしいものだから。人々はライヴの体験の価値を理解している。どの公演も1回1回違うかけがえのないもので、お客様もそこに参加して一部を担っている。オペラには視覚的な要素があり、技術も進化しているので、これまで以上にチャンスがあると思う。

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飯守泰次郎

 
 
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