メッセージ:2018年7月〜9月  

タイトル枠上
タイトル枠左

ホームページをご覧の皆様へ
新国立劇場オペラ芸術監督任期4シーズンを終えて〜音楽スタッフ編
−飯守泰次郎−

タイトル枠右

タイトル枠下
 

『フィデリオ』千秋楽終演直後の記念写真
音楽スタッフの皆さんと
 


飯守泰次郎です。新国立劇場オペラ芸術監督として最後の『トスカ』全5公演が終了した過日、新国立劇場の音楽スタッフの皆さんが「感謝の会」を開いてくださいました。
どう考えても、感謝するのは私の方なのですが、ともあれ、新国立劇場の誇る音楽スタッフの皆さんと、私が芸術監督として指揮した『フィデリオ』を支えてくださった東京交響楽団事務局の方々も駆けつけてくださり、とても楽しいひとときでした。 この4年間、皆さんと一体になって音楽を作りあげてきたので、このような場を共に過ごすことができて、達成感もひとしお深まりました。

新国立劇場が招聘する世界最高のアーティストたちが皆、異口同音に、音楽スタッフの優秀さを称賛することは、すでによく知られています。私自身も公演指揮者としてピットに入った8演目44公演を乗り切れたのは、音楽スタッフの皆さんが結束して支えてくださったからにほかなりません。

しかも、私が指揮した演目は8つのうち7つがワーグナーでした。上演時間だけみても約5時間またはそれ以上かかる演目が『パルジファル』『ローエングリン』『ワルキューレ』『ジークフリート』『神々の黄昏』、と5つもあり、音楽稽古、立ち稽古の段階から本公演終了まで、今から振り返るとよくできたものだと思うほどの厳しい日程でしたが、大掛かりで複雑な作品であっても、一人一人の歌手にもよく気を配り、支えてくださいました。まさに音楽スタッフは新国の「宝」、と心から誇りに思います。音楽スタッフの仕事はお客様からは見えませんが、今後も新国が世界の一流歌劇場としてさらに発展していけるよう、思う存分に能力を発揮していただきたいと思います。

 

飯守泰次郎

 

タイトル枠上
タイトル枠左

ホームページをご覧の皆様へ
新国立劇場2017/18シーズン終了
〜芸術監督の任期最後の公演『トスカ』を終えて(2018年7月)

−飯守泰次郎−

タイトル枠右

タイトル枠下
 

千穐楽終演後、舞台裏のシーズンエンディング乾杯会でスピーチ
千穐楽終演後、舞台裏のシーズンエンディング乾杯会でスピーチ

飯守泰次郎です。おかげさまで、新国立劇場オペラ芸術監督の任期4シーズン目の2017/18シーズンが閉幕しました。これをもちまして、2014年秋から私がオペラ芸術監督を務めてきた四年間のすべての公演が終了いたしました。このホームページをご覧くださっているすべての皆様に、改めて深く御礼を申し上げます。

芸術監督として最後に選んだ『トスカ』は、アントネッロ・マダウ=ディアツ氏演出による2000年9月プルミエのプロダクションで、新国立劇場のレパートリーの中でも最も人気がある舞台のひとつです。同プロダクション、同キャストで、滋賀県のびわ湖ホールで昨日、および本日7/22(日)15時開演の上演がございますので、ぜひ皆様いらしてください!

私はオペラ芸術監督に就任して以来、自分が指揮しないすべての演目を、客席に身を置いて実際に観劇し、幕間にはホワイエに出てお客様とお話しするようにしてきました。

ロレンツォ・ヴィオッティ氏と
ロレンツォ・ヴィオッティ氏と

出来る限り初日の様子を肌で知ることを大切にしてまいりましたので、今回の「トスカ」も7/1の初日をすでに観ておりましたが、任期最後の公演となる7/15の千穐楽も何とかスケジュールの調整ができて、猛暑の中、全席完売で熱気に溢れる本番に駆けつけることができました。

今回の上演で特に注目を集めたのは、指揮者のロレンツォ・ヴィオッティ氏が、親子二代にわたって新国立劇場の『トスカ』の同じプロダクションを指揮した、ということです。
ヴィオッティ氏の父君のマルチェッロ・ヴィオッティ氏はいうまでもなく、ヨーロッパの多くの歌劇場やオーケストラで活躍した名指揮者で、2000年に新国立劇場でこの『トスカ』のプルミエを指揮されました。 ロレンツォ・ヴィオッティ氏は、まだ二十代の若さとは思えない成熟した指揮ぶりで、今後が怖ろしくなるほどの才能であり、強烈な響きから柔らかく微かな響きまでを駆使して『トスカ』の魅力を新鮮に表現してくださいました。
再演演出の田口道子氏と
再演演出の田口道子氏と

このプロダクションがプルミエ以来6回の再演を重ねてなお、こんなにも生き生きとしているのは、演出家のマダウ=ディアツ氏(2015年逝去)のアシスタントでいらした田口道子氏が再演演出を務めてくださり、舞台に新たな命を与えてくださるおかげなのです。

ウィーン、メトロポリタン、スカラなどの欧米の名歌劇場では何十年も人気を保って演出家の没後も再演を続けているプロダクションが当然のように多数あります。
それを支えているのが、田口氏のようにプロダクションの生命をしっかりと守って時代の中で活かしていく、優れた再演演出の力なのです。

美術の川口直次氏と
美術の川口直次氏と

川口直次氏による美術も、圧倒的な豪華さと、細部までとことんこだわり抜いた緻密さで、まさに何度観ても見飽きることがなく、新国立劇場が誇る見事な舞台であり、オペラの喜びを心ゆくまで味わうことができます。

芸術監督の任期中、歌手をはじめとする出演者の交代で気を揉むことは少なくありませんでしたが、任期最後の公演のしかも千穐楽当日に、しかもタイトルロールが交代することになるとは、お客様も大層驚かれたことと思います。オペラとはまさにそういうもので、 オペラに出演するということは、見た目の優雅さとは裏腹にアスリートに匹敵する厳しさがあるのです。

千穐楽のトスカ役を見事に務めた小林厚子氏と
千穐楽のトスカ役を見事に務めた小林厚子氏と

急な交代でトスカ役をお願いすることになった小林厚子さんは、前日も「高校生のためのオペラ鑑賞教室」でトスカを歌ったばかりにもかかわらず、実に見事に演じ切ってくださり、カーテンコールでも招聘歌手と並んで盛大なブラヴォーを集めました。このように、『トスカ』のタイトルロールという大役であっても、カヴァーを務める日本人歌手が十分な実力を備えていることを如実に示せたことは、私としてもとても嬉しいことでした。

カヴァラドッシ役のホルヘ・デ・レオン氏は、2015年の上演に続いてこの役をお願いしました。わずかの間に世界のメジャー劇場を席巻する国際的なトップスターに駆け上がった実力を、思う存分披露してくださいました。 急遽登場した小林さんとも息の合った見事なデュエットぶりで、舞台をいっそう沸かせてくださいました。

新国初登場のクラウディオ・スグーラ氏は、恵まれた体格を生かしたスケールの大きなスカルピアで、このプロダクションの見どころである第1幕幕切れ「テ・デウム」ではオーケストラと合唱に拮抗する存在感を見せる一方、囁くような部分も魅力的な演技で、悪役スカルピアのキャラクターを表現してくださいました。  
カヴァラドッシ役のホルヘ・デ・レオン氏と
カヴァラドッシ役のホルヘ・デ・レオン氏と

長いカーテンコールの最後には私も呼んでいただき、スタッフを代表して再演演出の田口道子さんが花束を贈ってくださいました。
はるか昔、プッチーニの『修道女アンジェリカ』で指揮者デビューしたことを思うと、新国立劇場オペラ芸術監督の仕事のグランドフィナーレとしてお客様にこのような最高に素晴らしい『トスカ』の上演をお届けできて、様々な苦労を重ねてきた甲斐があったと思います。

新国立劇場オペラ芸術監督の任期は8月いっぱいで、9月からは第7代のオペラ芸術監督、大野和士氏の新たな時代が始まります。私は監督の務めを離れ、幕間にはシャンパンなども楽しみながらお客様とお話しするのを楽しみにしております。皆様もどうぞ、これからも新国立劇場に変わらず足をお運びくださいますよう、心からお願い申し上げます。

なお、芸術監督の間は多忙のあまり実現できなかった新国立劇場オペラ研修所の公演での指揮を、9月16・17の両日、オペラパレスで担当いたします。研修所開所20周年を記念する「世界若手オペラ歌手ガラコンサートLE PROMESSE 2018」で、研修所の修了生、現役の研修生だけでなく、ロンドン、ミラノ、ミュンヘンのオペラアカデミーからも若手歌手を迎えて、私の大好きなイタリア・オペラの名アリア等を藝大フィルハーモニア管弦楽団とともに演奏します。こちらもぜひご来場をお待ちしております。

スカルピア役のクラウディオ・スグーラ氏と
スカルピア役のクラウディオ・スグーラ氏と

 

飯守泰次郎

 

タイトル枠上
タイトル枠左

東京シティ・フィル第317回定期演奏会(2018/7/13)に向けて・3
−飯守泰次郎−

タイトル枠右

タイトル枠下
 

東京シティ・フィル・コーアとのリハーサル
合唱とオーケストラのリハーサル

飯守泰次郎です。いよいよ本日7/13は、東京シティ・フィル第317回定期演奏会会です。連日の猛暑の中、リハーサルを積み重ねてまいりました。冷房が効いているはずの舞台の上さえ暑く感じられるのも、リハーサルに集中する全員の熱気によるものでしょう。

今回の、ブラームス「ネーニエ(悲歌)」と、ブルックナーのミサ曲第3番へ短調、というプログラムは、同じ後期ロマン派の時代を生きた二人の交響曲作家の魅力を、声楽作品という側面からそれぞれ存分に堪能していただける組み合わせです。

「ネーニエ」は、ブラームスがシラーの詩に作曲した、短いながらも大変美しい作品です。シラーの詩はギリシャ神話から題材を採っており、「美しい者も滅びなければならない、それこそが人間と神々を支配する掟である」と始まります。

ブラームスの音楽に特に重要なSchwerpunkt(重心)を、私は個人的に「おわん」と呼んでいる独特のマークでオーケストラのパート譜に書き込んで指示しています。それから、ブラームスに限りませんが、あまりに正確に演奏するのではなく、有機的にわずかに音楽が「揺れ」ることもしばしば大切になります。確立された西洋音楽の記譜法でも、音楽のすべてを表しきれるものではありません。このような、音符と音符の間や背後にある、楽譜に書ききれない音楽そのものをお伝えできるように、私たちはリハーサルを重ねております。

ブルックナーのミサ曲第3番へ短調は、約1時間を要する大曲です。敬虔なカトリック信者で教会のオルガニストを長く務め、心の底から神を信じて生涯を送ったブルックナーならではの、確固たる信仰の力が、壮大なスケールで表現されます。

ソプラノの橋爪ゆかさん、メゾソプラノの増田弥生さん、テノールの与儀巧さん、バスの清水那由太さん、という素晴らしいヴェテランをお迎えすることができ、大変嬉しく思います。東京シティ・フィルと私は二度にわたるブルックナーの交響曲のチクルスをともに経験し、ブルックナーの響きを長い時間をかけて培ってきました。様々なレパートリーで共演を重ねてきた東京シティ・フィル・コーアとともに、全員がお互いをいつも聴き合って純粋な一つの響きとなり、ブルックナーならではの崇高で、深く、偉大な音楽を、皆様にお楽しみいただきたいと思います。

東京オペラシティで皆様のお越しをお待ちしております。

 

飯守泰次郎

 

タイトル枠上
タイトル枠左

東京シティ・フィル第317回定期演奏会(2018/7/13)に向けて・2
〜東京シティ・フィル・コーアとのリハーサル その2〜

−飯守泰次郎−

タイトル枠右

タイトル枠下
 

東京シティ・フィル・コーアとのリハーサル
東京シティ・フィル・コーアとのリハーサル

飯守泰次郎です。7/13(金)の東京シティ・フィル第317回定期演奏会に向けた、東京シティ・フィル・コーアとの合唱リハーサルについて、先日はブラームス「ネーニエ(悲歌)」を中心にお伝えしました。
今回は、プログラムの後半に演奏するブルックナーのミサ曲第3番へ短調についてお伝えしたいと思います。

ブルックナーの作品の冒頭部分は、いわゆる「ブルックナー開始」といわれる弦のトレモロから、またはそうでない場合は行進曲風に、始まることが多いのですが、ミサ曲、特にこの第3番ミサ曲の場合は、そうではありません。
冒頭、チェロから順に弦楽器で「キリエ」の主題が受け渡されていくところからすでに、いわば”ゆれ”があり、まずこの始まり方からして大変素晴らしいのです。

ミサ曲第3番は、交響曲第1番の初稿を書き上げた後に作曲されました。ブルックナーはオルガンの即興演奏の名手として知られ、非常に篤い信仰心を持って教会オルガニストを務め、宗教曲を多く書きましたが、このミサ曲第3番の後は交響曲第2番に着手し、以降は第9番まで次々と長大な交響曲を書き続けることになります。
この作品では、「キリエ」、「クレド」、「グロリア」、「サンクトゥス」〜「ベネディクトゥス」、そして「アニュス・デイ」と、通常のミサ典礼文通りの構成の中に、後の彼の交響曲の着想につながる響きが次々と現れます。

合唱はほとんど座る間もないほどに活躍し、輝かしく、力強く、あるいは静かに深く内面的に、神を賛美します。「アニュス・ディ」を筆頭に、私自身、この作品に心底惚れ込んでおり、音楽史における宗教合唱曲の最高の作品のひとつだと思います。
合唱は、どの瞬間もラテン語の歌詞を心から、魂を込めて、聴衆に伝えなければなりません。そして、ブルックナーの特徴である深い宗教性を表現するためには、後期ロマン派の複雑な転調を常に感覚的に先取りして、純粋な音程と響きのバランスを実現することが何よりも重要です。2016年の「テ・デウム」でも、私たちは特にこの点で厳しい挑戦をしてきました。その積み重ねが、今回のミサ曲第3番で生きることを願っています。

いよいよ、オーケストラとともに仕上げる段階に入ります。 音楽を演奏することそのものがまさに祈りに近い、という思いは年々強くなっています。ブルックナーの音楽に身を委ねていただけるように、さらに純粋な響きを求めていきたいと思います。

 

飯守泰次郎

 

タイトル枠上
タイトル枠左

東京シティ・フィル第317回定期演奏会(2018/7/13)に向けて
〜東京シティ・フィル・コーアとのリハーサル〜

−飯守泰次郎−

タイトル枠右

タイトル枠下
 

東京シティ・フィル・コーアとのリハーサル
東京シティ・フィル・コーアとのリハーサル

飯守泰次郎です。7/13(金)の東京シティ・フィル第317回定期演奏会は、ブラームスの「ネーニエ(悲歌)」とブルックナーのミサ曲第3番へ短調、というプログラムです。

今回は2曲とも合唱が特に重要な作品であり、オーケストラに先駆けて6月から東京シティ・フィル・コーアとのリハーサルを始めています。

ブラームスの「ネーニエ」は、親しい友人の画家の死を悼み、シラーの同名の詩にもとづいて1881年に作曲されました。

ハンブルクの北の寒村で生まれたブラームスは、デュッセルドルフなど各地に住まいを変え、ピアノの名手としてヴァイオリンのヨーゼフ・ヨアヒムとともにハンガリー、スイス、デンマーク、オランダなどへ演奏旅行も繰り返していました。「ドイツ・レクイエム」で名声を不動のものとする前の彼は、作曲家というより合唱指揮者として知られており、ハンブルクや後にはウィーンのジング・アカデミーや楽友協会合唱団も指揮しました。
1862年にウィーンに居を定め、ジング・アカデミーの指揮者として多忙のため日頃は創作意欲を抑制されますが、毎夏に涼しく静かな環境で集中して作曲する、という晩年まで続く習慣をやがて確立し、交響曲第1番、ハイドンの主題による変奏曲、 交響曲第2番、ヴァイオリン協奏曲、大学祝典序曲と悲劇的序曲などが作曲されたのです。
「ネーニエ」は、交響曲第1番と第2番を書き上げた後に作曲されており、この直後には交響曲第3番、第4番の作曲も始まりました。

ブラームスは、後期ロマン派の時代にありながらどちらかというと古典的で伝統を重んじた作曲家であることはいうまでもありません。しかしこの「ネーニエ」は意外にもモダンな方向を向いている作品で、特に、ブラームスの作品とはちょっと想像できないような、信じられないほど激しい転調がとても素晴らしいのです。とはいってもやはり後期ロマン派の傾向も強く、“歌う”という表現が非常に前面に出ていることを感じます。

東京シティ・フィル・コーアは発足17年目を迎え、私と数々のレパートリーを共演してきました。
そもそもブラームスの「ドイツ・レクイエム」で発足し、結成十年記念でも「ドイツ・レクイエム」に再度、私とともに取り組んだほか「運命の歌」も共演しています。2016年にはブルックナー交響曲ツィクルスを締めくくる「テ・デウム」も歌っており、今回は2曲とも非常に合唱団が活躍するプログラムを中心となって担う力量を備えるまでに成長してきました。
とはいえいずれも難曲であり、長い時間をかけて取り組んできた練習の最後の段階にあります。今週までで合唱団のみのリハーサルを仕上げ、来週からはオーケストラとともにリハーサルをいたします。長年の共演で培ってきた響きに、どうぞご期待ください。

 

飯守泰次郎

 
 
− 当サイト掲載情報の無断転載を禁じます −
(c) Taijiro Iimori All Rights Reserved.