記事:2011年
     

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記事:朝日新聞2011年12月19日夕刊
「〈回顧2011・クラシック〉夢を見せる力、求められた」より

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〔前略〕
飯守泰次郎指揮東京シティ・フィルのベートーベン・チクルスは、名指揮者マルケヴィチの詳細な校訂報告に基づく版を用い、芸術の精神が継承されてゆくさまを壮烈な名演をもって示した。〔後略〕
〔以上、吉田純子氏記事〕

■私の3点(選者50音順、敬称略)
片山杜秀氏(音楽評論家)
▼東京カンタート2011「間宮芳生(みちお)の仕事」(5月1日、すみだトリフォニーホール)…(1)
飯守泰次郎指揮東京シティ・フィルによるマルケヴィチ版ベートーベン交響曲連続演奏会最終回(7月13日、東京オペラシティ)…(2)
▼溝口健二監督の無声映画「瀧の白糸」に望月京(みさと)の新たな音楽のライブ演奏を付しての上映(8月27日、サントリーホール)…(3)

(1)は怒れる情念の音楽。「3・11」以来の鬱積(うっせき)が爆発。
(2)は音楽の喜び炸裂(さくれつ)。生きててよかった。
(3)は洗練美の極致。恍惚(こうこつ)。
〔後略〕
 

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批評:朝日新聞2011年7月25日夕刊
飯守泰次郎&東京シティ・フィル
マルケヴィチ版の魅力全開

−音楽評論家・片山杜秀−

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1983年1月。大指揮者マルケヴィチが東京都交響楽団に客演した。ベートーベンの九つの交響曲の楽譜校訂を終えたばかり。都響とは第3番を披露。素晴らしかった。が、彼は3月急逝。校訂の偉業も忘れられた。

そのマルケヴィチ版に久々に日が当たった。しかも日本で。飯守泰次郎と東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団が全5回で9曲に取り組んだ。最終回は第2番と第5番(13日、東京・初台の東京オペラシティ)。

もうびっくりした。素晴らしすぎた。マルケヴィチ版と言っても別に楽器を変えたり音を足し引きしたりしているわけではない。発見と創意は別にある。たとえばベートーベンが音符に付したスタッカート記号。全部同じに見えるそれを、古い演奏習慣を掘り起こし4通りに分類し直す。1通りと思えたスタッカートの音符の長さが多様になる。フレーズの作り方も連動して変わる。歌が濃やかになる。

また弦楽器の弓づかいもなるべく昔の習慣に戻される。現代一般のやり方よりも弓の上げ下げがずっと多い。弓を動かす距離も速度も何倍か。演奏者に高負担。だがその分、勢いも音量も出る。目にも楽しい。

そんなマルケヴィチ版の工夫を飯守とシティ・フィルが全開にする。濃い。熱い。特に第5番。弓の運動量に目を奪われる。演奏会が大運動会になる。フレーズのどんな隅っこも、名人の書の墨汁の細かな飛沫(しぶき)のように生動した。

実は、30年近く前の校訂者本人による第3番の演奏はずいぶん違った。仕掛けは決してこれみよがしにはされていなかった。表向きは淡白に聴こえた。

飯守とシティ・フィルはマルケヴィチ版のポテンシャルを初めて赤裸々にしたのかもしれない。興奮に満ちた歴史的一夜。

 

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記事紹介:読売日本交響楽団ホームページ〜今後の「その他の演奏会」〜より
アプリコ・オーケストラ・シリーズ
飯守 泰次郎&読売日響 with 須藤梨菜 (2011/6/11)
「マエストロ、若き才能に出会う〜音楽が息づく時間(とき)」
−オヤマダアツシ(音楽ライター)−

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迷いのないタクトと、そこから生まれるオーケストラ・サウンドに、ただただ圧倒される時間。飯守泰次郎が作り出す音楽には、作曲者のメッセージをしっかりと客席へ届けてくれる生命力があり、ときに激しいアクションを伴うオーケストラとのコミュニケーションは、ホールの空気を動かすようなパワーに満ちあふれています。 そうしたマエストロ特有のアプローチは、ブラームスの交響曲第4番を威厳あるドイツの大聖堂のような音楽として聴かせてくれるはず。第1楽章の大河ロマン、第2楽章の叙情美、第3楽章のエネルギー、そして第4楽章の深みがあるドラマ。マエストロの意思を受け止めて力強い音楽を創造していく読売日響の演奏により、「ブラームスはこんなにすごかったのか!」と感嘆していただけるでしょう。

チャイコフスキーの名作で共演する須藤梨菜は、すでに10代で国内外の音楽コンクール入賞を続けている期待のピアニスト。若さで音楽に向かっていくような強じんさと流麗なピアニズムは、その両方を必要とするチャイコフスキーの協奏曲第1番に新しい命を吹き込み、ひとまわり大きな音楽として表現してくれるに違いありません。マエストロ飯守と読売日響はソリストを大きな愛で包み込むのか、それとも果敢に対抗するのか。そうした楽しみ方も協奏曲の、そして若手音楽家をフィーチャーしたこのシリーズならではの醍醐味です。彼女が得意とするショパンの円熟作にも注目を!
 
 
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